東京高等裁判所 昭和30年(う)1195号 判決
被告人 五十嵐武次郎
〔抄 録〕
弁護人の論旨第二点について。
原判決が被告人に対する認定事実の証拠として、被告人及び分離前の相被告人恒学の検察官に対する供述調書三通を引用していること、右供述調書のうち被告人の検察官副検事山村寅松に対する第二回供述調書(昭和三十年二月十一日付)に検察官の署名及び押印を欠いていることは所論のとおりである。ところで、右検察官調書にはその録取者たる立会検察事務官の署名押印は存するけれども取調検察官の署名も押印もないのであるから、刑事訴訟法規則第五十八条第一項所定の方式を欠くばかりでなく、果して調書冒頭表示の検察官によつて取調が行われたものか否か、これを確認し得ないのである。かような調書は適法な検察官作成の供述調書と認めることはできないから、その証拠能力も否定されなければならない。尤も原審第一囘公判調書によると、被告人側において右調書を証拠とすることに同意しているのであるが、固よりこれによつて前示のような該調書の形式的瑕疵が治癒されるものではない。然らば原審が、かかる証拠能力のない書面を罪証に供したのは違法というべく、しかも右書面を引用証拠から除外するときは所論のとおり被告人に対する原判示(一)の事実を認定するに由ないから、右の違法は判決に影響を及ぼすこと明らかであるといわなければならない。それゆえ論旨は理由がある。